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三良坂地区周辺整備アースワークデザイン計画業務 吉松 秀樹(建築家)
藤  浩志(美術家)
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三良坂地区周辺整備アースワークデザイン計画業務
 ◇ はじめに
三良坂町における灰塚ダム建設エリアは、再建実行計画に沿って開発している「湖畔の森」を中心として計画が進められているが、堤体−湖畔の森−のぞみが丘−灰塚大橋−原石山−堤体とループ状に結ばれる周回道路における景観に対する検討は今まで十分にはされてきていない。
今回のアースワークデザイン提案ではこの7mに拡幅される周回道路を「アースワークサーキット」と名付け、サーキット沿いの景観重点箇所を数カ所選定し、それぞれについて機能および景観デザイン上の提案をおこなうものである。
なお今回の提案を行う上において、97年夏に開催されたアースワークサマーキャンプ'97における三良坂町ワークショップをベースとし、数回の三良坂町およびのぞみが丘住民参加によるヒアリングを参考として作業を行った。
アースワークサマーキャンプにおいては、三良坂町長をはじめ三良坂町ダム関連課に対するヒアリング、のぞみが丘住民に対するヒアリングなどを参加学生とともにおこない、その分析をもとに各自提案を行った。しかしダム工事への提案はマスタープランとしてその基本的な方針をまとめたに留まった。
今回の提案は、サマーキャンプ時の基本方針を踏襲したうえで、秋以降の情報収集と関係各所との意見交換などを考慮に入れた上で、より現実性のある案を作成したものである。

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三良坂町アースワークサーキットマスタープラン
 ◇ 景観重点箇所(Master Plan)
アースワークサーキットにおける景観重要箇所を下記の4箇所と設定した。
  1. ダム堤体周辺及び下流側プラント跡地を含む堤体周辺
  2. 鞍部工周辺(湖面アクセス)
  3. 灰塚大橋及びその周辺
  4. 原石山及びその周辺

ダム湖畔の景観形成
アースワークサーキットは、7mに拡幅された周回道路であり、灰塚ダムを訪れた観光客が必ず一度は通るルートである。従って、ダム周辺整備の規範となるべき景観形成が行われている必要があるだろう。
「アースワーク宣言」を行ったダムおよびダム湖として、誰しもが視覚的に認識できる美しい景観とそれに保ち続けられる管理体制が要求される。
まず基本的な考え方として環境に十二分に配慮した開発が灰塚ダムエリアでは行われるべきである。
環境への配慮には2通りの側面がある。
ひとつは、生物や植物など既存の自然に対する配慮と将来の自然に対する配慮を両方とも兼ね備えた環境整備の指針づくりである。
もう一つは、景観デザイン的な配慮とそれらの管理体制への配慮を兼ね備えた開発デザインの手法の確立とその実行である。
このどちらにおいても灰塚エリアの住民、三良坂町、建設省の意見を十二分に調整した上で最終的な決定が行われることが重要である。

A. ダム堤体周辺及び下流側プラント跡地を含む堤体周辺(平面図)
ダム堤体周辺では、ダム堤体周辺と下流プラント跡地の利用計画との一体となった開発イメージが景観上重要な要素である。また地形的に山が急峻であるため周回道路による法面の形成には十二分な考慮が必要である。
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 ◇ ダム堤体周辺(立面図)
ダム堤体周辺の要素としては、管理施設、ダム記念館、展望スペースなどがあげられる。
ダム堤体そのものへのアースワーク提案の可能性についても、いままでの意見交換の経過を踏まえ、アースワークサマーキャンプ'97において緑化を基本とした提案を三良坂町ワークショップにて行っている。
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動物図鑑・どうぶつギャラリー(藤浩志提案)
ダム堤体堤体上部の橋脚部分や橋桁、手摺など水にふれない部分を原設計の荷重に大幅な変更を加えない条件でデザインする。RC部分は、モールディング型枠+着色またはタイル貼りなどの仕上げを施す。
条件を整理しデザイン、カラーを意見交換の上決定する。手摺部分は、下流側がRC、ダム湖側はガラスとする。また選択取水設備上部にはガラスで囲われた展望アースワークギャラリーを設置する。これは、ダム湖を望む展望スペースであると共にアースワークのテンポラリーな展示空間としても機能するものである。
10箇所ある橋脚部分上部には、2m角のプラントボックスが設置され、灰塚の人々によって選定された種類の木が植えられる。メンテナンスを考慮すると常緑樹が望ましい。
堤体の下流側両側は、左右に自然石を積み、威圧感を軽減する。また堤体直下周辺は、出来る限り植樹し、緑に包まれたダムとなるよう考慮する。
堤体と周回道路との交差点には、灰塚にある木を移植し、地域の記憶を堤体へ植え付ける。
管理施設管理棟はダム堤体周辺に位置し3000平方m程度の敷地を基準とするらしいが、堤体北側はかなり山を切り取らないと用地を確保できない。山を削らずに管理棟を設置できる場所として、周回道路のダム湖側の約2000平方mの三角地を選定した。こういった位置は他のダムにも先例があり、問題は広さである。そこで管理棟の1階をピロティーとし、駐車スペースなどの確保をしている。管理者の厚生施設は堤体下部にもうける。
 ◇ トイレ
展望スペース堤体の袂にはダムを訪れた人が休憩できるトイレ・休憩所(約30〜 50平方m)がある。この施設もアースワーク作品として堤体と同時にデザインできることが望ましい。反対側の袂にはダム湖側、下流側の2ヶ所に展望スペースを設けている。
 ◇ ダム記念館
ダムの歴史を展示する展示施設に関しては、地元からの要望は低い。より積極的に灰塚住民やダムを訪れた人々が利用できるように、灰塚ダム情報センター(メディアテーク)を湖畔の森との間に設ける。
機能的には、図書、映像を中心とした閲覧サロンと集会スペースに、ダムの情報、3町の情報、環境の情報、アースワークの情報など、灰塚に関係のある様々な情報が集められる。
 ◇ 下流プラント跡地
小塩野地区は積極的な開発エリアとしてではなく、ハイヅカ湖畔の森の延長線上にある開発として位置づけている。夏期における宿泊施設として、オートキャンプ場とキャンプ場として整備する。
小塩野オートキャンプパークは10m角でカラフルにペイブされた占有スペースがばらまかれた公園である。
公園内は、マウンドや小川によって起伏がつけられており、自然な状態で管理される。
河川部分は、サマーキャンプ'97で水滴公園として提案したものである。
アプローチ道路の北側は、キャンプ用地として整備され、駐車上としてオープンスペ ースが確保される。堤体際には、オートキャンプパークとキャンプスペース共用のトイレ、炊事スペースを機能とするレストハウス(200〜300平方m)を整備する。ごみ処理などもここで行われる。
 ◇ 水滴親水公園
三良坂町のダムエリアには高水域が少なく水とふれあう場所が計画しにくいため、敷地の一部を河川とみなして整備している。遅くなった流水速度をさらに河川断面に微かな段差を設けることによって、アクセスしやすい親水公園となる。親水公園は水滴が重なり合った形状をしている。

B. 鞍部工周辺(湖面アクセス)(平面図)
鞍部工周辺は、ハイズカ湖畔の森とのぞみが丘の間にあり、三良坂町中心部からの分岐点でもある。新しい灰塚エリアの交通の要所となると思われる場所であるが、現状の計画では交通の結節点や湖面アクセスへの魅力付けに乏しいため、ヒアリングを参考にして鞍部工を中心とした広場へと計画し直している。道路の変更による交通計画の見直しと旧管理道や新設の管理道との調整、提案が行われている。
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 ◇ レストハウス
ロックフィル式の小さなダムを中心として、地域住民や通過交通車が利用しやすいドライブイン機能を設定している。機能的にはコンビニエンスストアーが望ましいが、経営等の問題が在るため、今回は自動販売機とトイレを中心とした施設としてレストハウスを鞍部工の前面に設定している。
レストハウスの前面にはガラス越しに自動販売機が並び、大きな庇越しにダム湖を望むことが可能である。
 ◇ ロックフィルダム
ロックフィルダムは自然石によって修景され、両サイドから湖面アクセスであるハープパイプ広場へ降りることが可能である。頂部にあるレストハウスと一体となった開発を行うことによって、土木的な威圧感をアースワークへと転換させることが可能となる。
 ◇ ハープパイプ広場
花見をする場所、つまりたくさんの人が気楽に集まれる場所が灰塚周辺には少ない。ロックフィルダムから湖水面までの200m以上の距離を利用して、桜が両側に植わった堤を設けている。堤の内側は、緩やかにカーブを描く谷状になっており、様々な使い方のできる広場として整備される。直線距離がとれることから、模型飛行機らライトプレーン、フリスビー等の大会も可能だろう。
緩やかな傾斜があることから、グラススキーや冬季にはスノーボードの練習なども可能である。
ハープパイプ広場へ集中する時期(花見、花火、イベントなど)の為に周辺に3箇所のオープンスペースが確保されており、計190台以上の駐車が可能である。
ハーフパイプ広場と湖水面との間には親水ゾーンが設けられている。この親水ゾーンが三良坂町のなかでもっとも湖水面にアクセスしやすい場所であると思われる。水際を楽しく自然に演出すべきである。また親水ゾーンの南側にはボートヤードが設けられている。ここを起点として、ダム湖各所に設けられた湖面アクセス広場までいくことが可能である。
 ◇ ゲートゾーン
県道から湖畔の森への分岐点となる交差点は、同時に湖面アクセス拠点となる鞍部工+ハープパイプ広場への導入口であり、のぞみが丘への入口でもある。
この結節点を視覚的に位置づけるために、このコーナーを桜の森によってゲートとして位置づけたい。
桜の森にはサインボードが隠され、ハイヅカ湖畔の森へつらなる並木道によってスムーズに導入する。

C. 灰塚大橋及びその周辺(平面図)
灰塚大橋は、ダム湖側に突き出た城跡の山を袂に従えた三良坂町ではもっとも大きな橋である。またのぞみが丘からは歩いていけるほどの距離となり、またレベル差もあまりないことからサイクリングのルートとしても有効である。
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 ◇ 灰塚スカイウェイ
のぞみが丘から灰塚大橋への道は、現計画では、湖水面側に小さな法面が連続する計画となっている。
アースワークサーキット上でも意外と広い湖水面を見渡せる場所がない為、この道の湖水面側の小さな法面を切りとばし、それらを展望スペースとして整備することによって、のぞみが丘から灰塚大橋までが湖水面を見渡せる眺望のよいルートとして開発が可能である。
 ◇ 紅葉による修景(アースワーク展望広場)
湖水面に突き出た山は、アースワークサーキットから視て楽しめる山として整備したい。
頂部にはアースワーク作品としてのアースワーク展望広場が設置される。山の頂部の周囲にマウンドをつくり、東西北方向にひとつずつ四角いトンネルを置く。山肌から少し突き出た展望トンネルからは原石山等を見ることができ、展望広場からは原石山のアースワークホールから打ち上げられる花火をほぼ頭上に見ることができる。
マウンドと山の東西北方向には紅葉する木が植えられ、季節によって山並みに幾何学的な模様が浮かび上がる。模様のいれかたについては、アーティストの参加や関係者等のヒアリングをもとに決定したい。
駐車スペースから法面両側の階段か中央の作品化された階段を約40メートル登ると展望広場に到達する。
 ◇ 湖面アクセス
山の足元には、湖面アクセス広場が整備され、アースワークサーキットの駐車スペースから歩いてアクセスが可能である。
 ◇ レストハウス+耳公園
灰塚大橋の袂には空地を出来るだけ確保しておきたい。北側には、トイレ・休憩所をもつレストハウスがダム湖に突き出ている。経営者がいればカフェなども可能である。
南側には、ワークショップ'95において韓国のYOON氏より提案された「地球の音を聞く聴診器」作品を設置する耳公園を提案したい。
ダムによって変化した地球そのものを音で感じる耳公園と山の頂上で緑に包まれならが現在の風景を視る展望公園は、灰塚大橋の袂が相応しい。
またレストハウスに面する長大な法面には、植樹が施されていることが望ましい。
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みる為の道具 オブジェ例(藤浩志提案) きく為の道具 オブジェ例(藤浩志提案)
 ◇ 灰塚大橋
橋の構造をいじることなくこの大きな橋のイメージを変え、かつ地域との接点となるような橋のデザインとして、いくつかの提案のなかから橋の側面に文章を書く案を提案している。
高さ約1.5mのアルファベット文字が橋の欄干の外側にとりつく。文章の内容は、アーティストによって決められても良いし、また地元から募集しても良い。
橋の両端には、中央に灰塚の木を移植し、交差点の照明も同時に足元に設置される。

D. 原石山及びその周辺(平面図)
原石山は再建実行計画策定時から、アースワーク化が可能とされていた箇所であるが、その詳細な条件が未定であったため、いままで提案があまり行われていない。
サマーキャンプ'97の段階では、原石採取量が多く、原石山のほとんどを常時満水位まで削らねばならないだろうとの予測から、「桜の浮島」と名付けた提案を行った。
これは山の先端部分のみを残し、修景することにより、ダム湖のアクセントとし、また道路によって削られる広大な法面の印象を改善しようとしたものである。
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 ◇ 桜の浮島(原石山修景計画)
骨材の採取場所として計画されている原石山のカット方法の提案。
必要な量をとると常時満水位ぎりぎりとなるため、先端部分が離れ小島になるように中央部分をカットする。 小島には桜を植え、春にはピンク色の島が浮かぶ。
のぞみが丘入口の堰堤からピンクの島が並ぶように修景する。
原石山は円形の逆ドーム状にカットされ、イベントや花見などに使われる。
 ◇ クジラ島(藤浩志氏提案)
このエリアの景観上のシンボル的な存在として、原石山の堀削作業にともなう周辺整備を利用し、湖に浮かぶ島を創出する。
水質浄化の為の噴水を原石山の上に設置し、原石山の表面に緩やかな滝を演出する。岩石むき出しの上に水が流れて長い年月が経つと、その表面がどのように変化するのか興味深い。立地条件等から将来的に猛禽類の生息場となることを目論む。
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クジラ島イメージ図(藤浩志提案) クジラ島計画イメージ図(藤浩志提案)
 ◇ アースワークホール
骨材の採取量がそんなに多くは必要なく、周回道路と同レベル程度で良いとの条件を受けて、計画し直した案である。
原石山をダム湖にむかって歩いていける程度の緩やかさ(1/14程度)で斜めにカットしその内側を採取量が確保できるように露天掘りで削っていく。中央部分には島状のステージが出来上がり、そこへ向かって1/8程度のスロープが面する巨大な空間が出来上がる。
アースワークサーキット側には、プロジェクションハウス(映写室、倉庫)が置かれ、ステージ上部に仮設されるスクリーンへ映写が可能である。また、ステージとスロープを用いて演劇やパフォーマンスなども可能である。また、要望の多い花火の打ち上げ場としても機能する。山のなかから花火が打ち上げられ、アースワークサーキットから眺めることが可能となる。道路沿いには、イベント用として、トイレブースが並べられている。これは管理面を考慮して細かく分けられているものである。
 ◇ ループウォーク
切り取られた山際を歩いていける散策路がループウォークである。道の外側は、紅葉による修景が行われ、季節によって、その切り口の表情を変えていく。
先端には、展望タワーが設置されている。これは、展望の為であると同時にイベント時の照明や撮影などの足場としても利用されるものである。
先端からは、尾根沿いに湖面まで降りていくことが可能である。常時満水位のあたりは、湖面にアクセスしやすいように少し手が加えられる。
 ◇ 田戸橋
灰塚大橋と同様に高さ約1.5mのアルファベット文字が橋の欄干の外側にとりつく。
文章の内容は出来るだけ物語性のあるほうが望ましい。
田戸橋の脇から山へ入る管理道の先を駐車場として整備し、湖面へのアクセスの起点としたい。


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