アートドリル

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■□ 演習課題1
下の3つの図をしばらく見た後、隠してください。そして記憶に頼って、その図を描いてみましょう。
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図1 図2 図3
図1 図2 図3
飽きない形
試してみると図1と図2は思いだしやすいけれど図3はむずかしいことがわかるでしょう。
図1は三つの四角形が平らに並んでいる。図2は三つの四角形が重なっている。と複数の四角形の組み合わせとして理解し、その通りに思い出して、組み立てなおす(再現する)ことができますが、図3は見かけは四角が重なったり並んだり同じような印象があっても、その印象に従って思いだし、組み立てなおそうとするとなかなかうまくできません。というのも図3は三つの四角形の組み合わせではなく、一つの線でつながった、一つの連続した形だったからです。つまり、この図3は、そこに色々な形を見つけだすことができたとしても、そんな一通りの形の組み合わせには容易に分解できないほどに全体が強くひとつにまとまっているわけです。
見るたびに異なって見える、飽きない形というのは、たぶん、この図3のように、容易に記憶できず、部分に容易に分解できない形です。
強い形
彫刻家のミケランジェロは「崖から落としても壊れない形こそがいい形だ」と言いました。しかしもちろん、物である限り、壊れない物はありません。ミケランジェロが言ったのは、たとえ物としての彫刻が壊れたり、どこかがなくなってしまったとしても、いい彫刻は、もともとの全体の形のまとまりを残していなければならない、と言うことです。たしかに、お母さんやお父さん、好きな人の顔が、たとえ断食して、三分の一にやせたり太ったり、ヒゲダラケになったりしたとしても、その人のことは容易に見つけ出すことができるように。
強い形というのは、それ以上、もう要素に分解できないくらいに無駄を削ぎ落とした形です。たとえば四角や円の組み合わせで出来た形は、分解できますが、当の四角や円そのものは、それ以上分解できません。彫刻家は、四角や円よりもはるかに複雑な形を、四角や円という基本的な形と同じように、ひとつに完結した形のまとまりとして作り上げるのです。図3はそんな形のひとつのモデルともいえます。

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■□ 演習課題2
もうこれ以上壊せない、ひとつに強く連続し完結した形を、用意した日常品(廃品)から引き出してみましょう。
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何の目的なのか、理由もわからないけれど、その形は何かの目的に則していて正しいように見える。
演習風景
演習風景
しかし人間の作った形はほとんど、図1や図2のように、容易に要素に分解できてしまうものが多い。たとえばラジカセがラジオとカセットの組み合わせであるように。それを作った人間の発想や手順が透けて見えてしまう。ところが植物や動物、鉱物などの自然の形は、それがどういう風に作られたのか、何を目的にして作られたのか、簡単にはわかりません。けれどその形は決してデタラメでなく無駄もなく見えます。つまり何の目的なのか、理由もわからないけれど、その形は何かの目的に則していて正しいように見える。これを目的なき(のわからない)合目的性とカントという哲学者はいいました。
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制作風景
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制作風景
芸術作品も(それがあるとしたら)、目的のすぐ知れる人の作った他の道具とちがって、こんな自然物のように、容易に部分に分解できない、圧倒的な正しさ、完結性をもっているはずだと。
今回の演習では、そんな人間の作った日用品から,部分の組み合わせに見えるような無駄を省いていって(頭で分解できるようなところは解体してしまい)もうこれ以上、壊せない、ひとつに強く連続し完結した形を引き出してみようということが一番の狙いです。
ひとまず、その日用品の作られた目的、機能を忘れて注意深く観察してみましょう。植物学者が植物を観察するように。
そして、その物から犬の顔やら、ピーナッツの形やら、ラセン形やら思いがけない形が隠されているのが見つかったらシメたものです。それがもしかしたら、その物に隠された本当の全体の姿だという気がしてきたら。注意ぶかく、その形以外の無駄な部分を取り除いていってください。
ボーリングのボール 2つに切る 足をつければ?
ボーリング


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