Workshop 1995
Guest Artist: YOON Young Seok
ユン・ヨンソク
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水中聴診器 Stethoscope Capsul
  人間は歴史を通して、絶えまなく自然に挑戦し自然を破壊してきました。それは自然に対する盲目的な挑戦とも言えるし、人間の生存の為の行為とも言えます。灰塚ダム建設工事も、やはり人間の安全な生活の為に生態系を破戒し変化させる行為 であり、この自然にあふれ歴史も深いこの地が水没することは、人間と自然との関係について考えさせられる不幸な事件と言えます。
しかし、このことがもしこの灰塚地区の運命であるならば、この変化と破壊の現場に一つのタイムカプセルを設置することを提案します。それがまさしく水中聴診器です。
東洋では古くから人の体は一つの小宇宙と言われてきました。体の異常の有無を音を聴くことで診断する聴診器を大地(地球:earth)にあて、地球が呼吸するその息吹を人が聴けるようにするのです。それと同時に、そこには灰塚ダム建設計画にともなうあらゆる資料を保管し未来に残してゆくことを提案します。

生態系の橋 Documentury Bridge
  ダム建設の為に、古い歴史を持った灰塚地域の大部分が水没する自生してきた植物群、森、そこで生活していた動物たち、神社や遺跡、伝統遺物らが大きな変化の波をこうむることになります。
私はダム建設の全ての計画と、その変化を生々しく証明する、ドキュメンタリーの橋(Documentury Bridge)をつくることを提案します。この橋は、すでに建設予定の橋に連携してつくることを考え、全部で四つの空間を設けるつもりです。
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  1. 植物園
    この地域で自生している、植物群とその土壌をそのままのこす。自生していた植物達は、この一帯の生態系の一つの証拠物として植物園に生き残ることになる。
  2. 動物園
    鳥類と動物達、ダルマガエルに代表される両生類が自由に出入りできる家(巣)をつくる。それらが第二の自然の中で、どの様に適応して生きてくかを我々は見ることになる。我々が予測できないもう一つの生態系が生まれ、そこに住む動物達が変化した環境の中でどの様に生き残ってゆくのかを見ることができる。
  3. 博物館
    水没する地域の、歴史的にも意味がある遺跡や遺物らを一つに集める。観客達は、過去(水没以前)この地域にどの様な遺跡や遺物があったかを確認する。
 ※ 橋の橋脚は、複数のパイプによってまさに鳥篭の様に一つの空間を形成します。月が過ぎると、そこには私達が予測することができない新たな生態系が形成されることでしょう。

不渡不帰橋
  Non Returning Bridge (The Bridge which can't go over and comeback)
  どのみち私たちは、『おのずから、そのままある』『自然』の流れに逆らい、破壊しながら生きてゆくことしかできない存在なのかもしれません。そして、人間はその存在自体が孤独なものであり、生きると言うことは苦行なのではないでしょうか。このダムの建設工事ばかりでなく、人類の文明はもう渡ることもできず、もどることもできない橋の上を歩いているのではないでしょうか。
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不渡不帰橋 ダルマの反論(又はダルマの逆襲)
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ダルマの反論(又はダルマの逆襲)
  Daruma's Object (or Daruma's Counter-attack)
  9月19日、ここに暮らすある人の家にホームステイに招かれました。文化的な違い、と言っていいのかどうか、たんなる気のせいなのか、ただの他愛もないことか、やはり本当に深い問題でしょうか、そんな奇妙な体験でした。
人間と人間との間ですらこのような理解のしがたさが潜んでいるのに、私の仕事は自然とどんな関係が結べるといえるのでしょう。自然は私を理解してくれるでしょうか。灰塚アースワークプロジェクトでの私のプランは、ここの自然に対して何を与えるのでしょう。そんな不安がよぎりました。ホームステイ先で、その日の夜、夢を見たのです。恐ろしい、しかし美しいと言いたくなるような光景でした。
おびただしい数のダルマガエルです。巨大な人工構築物であるダムに向かって、気も遠くなるような数のダルマガエルが攻撃を仕掛けているのです。
私は、彼らが巨大なダムにかみつく場面を森の中から息を殺しながら眺めていました。パール・バック女史の『大地』を思い出しました。厳しい自然の審判が始まったのでしょうか。私達は今、大自然に何をしているのでしょうか。
(訳文:呉伸大)


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