地域の人と環境づくりを考える
8月3日(火)−8月5日(木)
場所:ふるさとセンター田総 他 
講師:栗本 修滋(環境エンジニア)
杉本 隆(地域開発プロデューサー)
■□ 合同演習:地域の人と環境づくりを考える
   *  第1講 自然環境創出の技術(8月3日)
*  第2講 草・木・森を描く技術(8月4日)
*  第3講 人の暮らし(社会)と環境(8月5日)

_
*  第1講 自然環境創出の技術(8月3日)
_
自然環境創出の技術についての講義は、主に次の3つのテーマについて行いました。
1) 自然イメージのすりあわせ
ガイダンスでも述べましたが、私たち技術者は依頼者に技術を提供します。私が自然を創出する技術を提供する場合は、依頼者が自然を創出したいと望むからです。その時、依頼者はどのような自然をイメージしているのでしょうか。
自然環境は場所ごとにことなります。樹林もあれば、草地もありますし、植物が生育していない場所もあります。植物は時間とともに変化します。はじめは草が生え、やがて樹林になると言われています。
私たちが取り扱う自然は理論や想像の産物ではなく、現実にそこにある存在です。したがって、現地を見てどのような自然かを自分なりに把握することが重要だと思っています。その上で、依頼者とどのような自然なのかについて、イメージのすりあわせをします。
2) 技術を盗むということ
科学はものごとの普遍性を追求するのに対して、技術は特定の条件の中での最適性を追求します。植物の生存競争からみると、セツブンソウなどの貴重植物は弱い植物ですから、いずれ消滅します。しかし、地域に住む人がそれを生かし続けさせたいと望んだ場合、生かせる場所を選択して、生存競争に勝ち抜けるように、人が援助してやる必要があります。このように、生かせる場所を選択したり、生存競争に勝てる援助方法を考えるのが具体的な技術です。
植物への援助は生かしたいと望んだ地域の人が身体を動かして行うことが前提となります。その人の顔を思い浮かべながら、「これならできるわ」と言ってもらえる方法を考えるのです。このことを技術の世界では最適性の追求と言います。
それぞれの場所、そこで暮らす人々など、いろいろなことが条件になって、技術では最適性が異なってきます。ここで最適な技術が別の場所で最適になる保証はありません。したがって、ここで使った技術をまる覚えするだけでは不十分です。私たちが技術を盗めという場合、技術を提供する姿勢、最適な技術を選択する手法を盗めと言う意味だと理解して下さい。
3) 自然を把握するということ
最適性を追求する上で重要なことは、それぞれの条件の差異を見つけることです。
自然を見るときも差異を見つけるようにしています。もちろん自然の差異には共通性がありますから、自分なりに差異と共通性を見つけて下さい。例えば、樹木を描く場合、葉のつきかた、枝の出かたには樹木の種によって共通性と差異があるのです。どうでしょう、木の名前は知らなくても、木によって違いがあることを絵で表現できますか。地元の人と会話する場合、必ずしも植物の名前を知っている必要はありません。植物の名前は地方によって呼びかたがことなりますので、会話にならないことのほうが多いのです。それでも、どのような場所に生えているか、花の色、花の時期、葉の形など(差異)の情報を持ち寄ることによって、図鑑で調べてお互いわかり合えます。
その過程が楽しく、人と人の交流が生じます。その人が、ある植物に思いを寄せる理由を聞き、心優しい人々はみんなでそれを移植して育てようというようになるのです。

_
*  第2講 草・木・森を描く技術(8月4日)
_
演習
何もみないで草・木・森を、それぞれ一枚の用紙に描いてみて下さい。
栗本講師の模範例(図)
12.3KB
11.8KB
11.8KB

ポイント
自然の法則を読み解くためには、じっくり観察することが必要。また、観察を通じて法則が生まれることを学ぶ。

_
*  第3講 人の暮らし(社会)と環境(8月5日)
_
植物の生育とか、自然環境の維持・創造というと、自然だけが相手のように思われがちです。しかし、実は人の暮らしが大きくそのことに関わっているということを理解してもらうため、次の2つについて講義しました。
1) 生活再建地とは
ダムに水没する人たちが移転する生活再建地は村ぐるみの引っ越し先です。できることなら、裏山や庭などの自然もそのまま移したいのです。水没する人里をそっくり環境復元したいというのが移転する住民の思いです。
日本の自然環境は大部分が人里環境です。田園への人手のかかり方と美しさは、鎖国が解けて明治時代に日本を訪れた英国人が称賛したほどです。しかし、この人手をかけた美しさも失われてきています。樹林の下刈りや間伐の手間賃(維持管理の費用)が堆肥、柴、薪、炭などの収入でまかなえていたのですが、石炭、石油などの利用のおかげで収入が無くなったからです。さらに、この地域では農林業が不振、過疎で人手が不足するなどの問題があります。
水没する人里環境を作り直すといっても、それを持続して維持していける仕組みが欠かせません。環境の維持のためにも地域の生産(農林業)、振興(収入の確保)、活性化(人手の確保)が必要です。これらは地域の豊かさをめざすだけではなく、環境を守り、育てるにも重要だと理解してください。
2) 関わり方で変わる「環境」
講義の前に、「きれいな水、川、流れ」、「きたない水、川、流れ」の例やイメージを書いておいてもらいました。川の汚れでゴミがあるというのがあります。藻や水草が汚いというのもあります。
しかし、中国では水草は農業用肥料、家畜飼料、魚類養殖に使われる資源で、汚染とはみなされません。なにかのモノがはじめからゴミということはありません。
「捨てればゴミ、生かせば資源」というように、その人の生活の意識、仕方でゴミが生まれます。このように、地域の環境をそこに住む人の立場から考え、住む人が良いと決めた環境を守り、育てる考え方のことを「生活環境主義」と言っています。これに対して、自然破壊をやめ、自然を保護して、自然の浄化作用を保つ環境を守る「自然環境主義」という考えもあります。ここで守るとされる自然は「奥深い森林」、「水辺のヨシ」、「湿地帯」などの場所で、ホタル、タガメなど特定の生物が生き残れるかどうかを重視します。もう1つ「近代技術主義」という考え方もあります。技術の発展で環境問題を
解決できるという考えです。排ガス浄化や工場排水浄化での技術発展はたしかに成果をあげてきました。
環境を考えるとき、「Think Globally, Act Locally」と言われます。「地球規模で考えて、身近な地域で行動する」ということです。
身近な地域で行動するときに大切なことは、人々の日常的な何げない認識や行動に意味を読み取り、環境問題に対処する方向を見い出すことです。これは水没で移転した人々の生活再建にも重要です。住民も意識しにくかったり、行動しにくかった日常的な春植物とのつきあいを水没させずに持ってきたことが春植物移植の意義といえます。
明日から地域の人々とつきあい、日常の何げない認識や行動をアーティスト特有の鋭い感性と表現力でつかみとり、環境づくりに役立てて下さい。


■   ← →