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第1講 自然環境創出の技術(8月3日) |
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自然環境創出の技術についての講義は、主に次の3つのテーマについて行いました。 |
1) |
自然イメージのすりあわせ |
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ガイダンスでも述べましたが、私たち技術者は依頼者に技術を提供します。私が自然を創出する技術を提供する場合は、依頼者が自然を創出したいと望むからです。その時、依頼者はどのような自然をイメージしているのでしょうか。
自然環境は場所ごとにことなります。樹林もあれば、草地もありますし、植物が生育していない場所もあります。植物は時間とともに変化します。はじめは草が生え、やがて樹林になると言われています。
私たちが取り扱う自然は理論や想像の産物ではなく、現実にそこにある存在です。したがって、現地を見てどのような自然かを自分なりに把握することが重要だと思っています。その上で、依頼者とどのような自然なのかについて、イメージのすりあわせをします。 |
2) |
技術を盗むということ |
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科学はものごとの普遍性を追求するのに対して、技術は特定の条件の中での最適性を追求します。植物の生存競争からみると、セツブンソウなどの貴重植物は弱い植物ですから、いずれ消滅します。しかし、地域に住む人がそれを生かし続けさせたいと望んだ場合、生かせる場所を選択して、生存競争に勝ち抜けるように、人が援助してやる必要があります。このように、生かせる場所を選択したり、生存競争に勝てる援助方法を考えるのが具体的な技術です。
植物への援助は生かしたいと望んだ地域の人が身体を動かして行うことが前提となります。その人の顔を思い浮かべながら、「これならできるわ」と言ってもらえる方法を考えるのです。このことを技術の世界では最適性の追求と言います。
それぞれの場所、そこで暮らす人々など、いろいろなことが条件になって、技術では最適性が異なってきます。ここで最適な技術が別の場所で最適になる保証はありません。したがって、ここで使った技術をまる覚えするだけでは不十分です。私たちが技術を盗めという場合、技術を提供する姿勢、最適な技術を選択する手法を盗めと言う意味だと理解して下さい。 |
3) |
自然を把握するということ |
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最適性を追求する上で重要なことは、それぞれの条件の差異を見つけることです。
自然を見るときも差異を見つけるようにしています。もちろん自然の差異には共通性がありますから、自分なりに差異と共通性を見つけて下さい。例えば、樹木を描く場合、葉のつきかた、枝の出かたには樹木の種によって共通性と差異があるのです。どうでしょう、木の名前は知らなくても、木によって違いがあることを絵で表現できますか。地元の人と会話する場合、必ずしも植物の名前を知っている必要はありません。植物の名前は地方によって呼びかたがことなりますので、会話にならないことのほうが多いのです。それでも、どのような場所に生えているか、花の色、花の時期、葉の形など(差異)の情報を持ち寄ることによって、図鑑で調べてお互いわかり合えます。
その過程が楽しく、人と人の交流が生じます。その人が、ある植物に思いを寄せる理由を聞き、心優しい人々はみんなでそれを移植して育てようというようになるのです。 |