灰塚・視線の型枠
8月3日(火)−8月14日(土)
講師:中谷礼仁(中間建築史家)
助手:寺田佳央(絵画)
豊川斎赫(都市建築史)
■□ 中谷ゼミ:「灰塚・視線の型枠」
(1) ゼミのねらい
建築の価値を決めるときに、建築史をふまえての判断がなされることもあるけれど、灰塚ではそういうことをはずして、みなさんが一気に共有できるような基準づくりがありうるかということを考えていきたい。建築史からコンテキストを教えるということもできるのだけれども、それを白紙に戻して、一体建築史は方法論的にはたして有効であるのかということを問うてみたい。建築史的なアプローチがどう灰塚に有効であるのか、また普遍性・客観性を持っているのか、皆さんと作業しながら考えていきたい。
今年のテーマ「視線の型枠」
1998年度の中谷ワークショップ・灰塚ヘリテッジでは、様々な文化財基準のスタディと考察を行った後、参加者各自が新たに環境文化財を認定する基準づくりをしました。そこでは、ひとつ問題がありました。ひとりひとりが文化財認定の基準をつくるとなると、たくさんつくることができるということです。文化財ということではたくさんの基準が出てきては困る。では文化財と判断する基準に何が関係しているのか、ということが今年のテーマです。「視線の型枠」では、ある人がつくった、ものを発見する基準がその人だけではなくいかに万人に共有できるのか、文化財とはそもそも合意形成されなくてはならないのではないかということを問いたい。そのために課題では、文化財認定をする際の基準を客観的に外化する道具をつくります。
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右斜面の斜めに生えている木が境木 

その例で「境木」というものがあります。山の所有地と所有地を木によって区分しているものです。境木とは三種類の特徴があるそうです。他の木と違う種の木であるか、あるいは形が違っているか、大きいかというものです。ここでは境木になっている木は斜めに生えています。一見境木は発見しようと思わなければ見えない、現実のコンテクストから外れている存在である。しかし、この境木によって区分された山は様々な図形をもっている。見ようとしないと見えないということ、これはもう少し研究する価値がある。「境木」に対する推論として、単一の論理で専制的に山の地割が決定される際に境界を示すものとして用いられるのか、それとも複数の論理の調停で山の地割が決定される際の境界を示すものなのか、この2点があげられ、その決定過程が論点となった。
(2) ゼミのすすめ方
灰塚アースワークの現状は、建築史的な評価基準にのらない。例えば民家があれば、そこにのるわけですが、そういったものはなくなってしまった。しかし境木は生き残っている可能性がある。そういう自然物に見せかけた合意形成としての存在はあり、フィールドワークをしたり、一見みえないけれど想像力を働かせたり、資料を読み解くことで見えていくかもしれない(都市史からみた灰塚)。合同ゼミでは、それをもう一回可視化させる道具を考えていきたい。
特別講義
8月9日・10日には、特別ゲストに稲垣栄三氏(建築史)・田中文男氏(大工棟梁)をお迎えして、特別授業「稲垣栄三氏・田中文男氏を囲んで」を行います。

■□ 中谷ゼミ成果:「灰塚・視線の型枠」
中谷 礼仁+寺田 佳央 「境木の生成過程を知る装置」
初期目的: 境木がどのようなプロセスで境木になりえるか、そこに現れる運動と道筋から境木を見出せるかを試みる。
方法: 主にチーズを潜在的な境木として4つのモデルを設定し、小動物(主に蟻)を被験者として実際に観察する。
今井 敬子 「くるくるマップ 地図と古地図を繋ぐ方法」
初期目的: 現代の地図を構成する視点と、古地図を構成する複数の視点の違いを体感する。
方法: 観賞者はくるくる回るマップのピース達を回し、視点を探り構成していく。
坂中 俊文 「リセット」
初期目的: 校歌の歌詞に、二つの統一辞法を適応させ、イメージを喚起する言葉の繋がりをつくる。
方法: そのイメージを絵に描いてもらうことで、その場限りの恣意的な連結ではないテクストを生成する。
複数の構造をもった図面を描くことができる。
玉井 幸絵 「山の開き」
初期目的: 地形に対して真上より等価に見渡した地図では見えない、多視点の像をつくる。
方法: 三つの角度で像を集める。遠景・中景・近景の各々の像を重ね合わせ、1つの画面の中に配置する。
具体例として、灰塚エリアをとりあげる
中島 陽+前川 歩 「頭のプロジェクター」
初期目的: 各個人がそれぞれ持っている灰塚に対するイメージを、他者がみたときにどのようにつなぎあわせるか調べる装置。
方法: 灰塚に関するイメージを自由連想によって480語を並べ、題目を第三者に与えもらう。その題目に沿ってキーワードが浮かび上がり、地と図との関係を模索する。
藤野 鉄也 「灰塚アースワーク地区・法令適用集」
初期目的: 法令と関係のない対象に対し、仮に法令を適用する。
方法: ポケット法令を用いて、灰塚の山、遺跡、橋きゃくに対して、保存条例を制定する。


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