@ 環境美術館設置事業
環境美術圏づくり
  「環境美術圏づくり」を推進していく過程において、現在その中心となるのはダム建設にともなう景観や自然環境への影響を最小限にとどめ、デザイン要素を公共土木工事に折り込むことです。
人工構造物(道路、橋梁、堤体、護岸など)とそれが作られる場所(景観・自然環境)との関係を、長期に渡って、柔軟性を持ちながら対応していける整備を実施するためにこれまで様々なデザイン提案・調整を行ってきました。
また、こういったハード面での協議の質を向上させ、将来出現する環境や人工構造物のリアリティを強化するために外部から作家や建築家、若い学生に訪問してもらいこの地について考察してもらう「場」を作ったり(サマーキャンプ・ワークショップ)、次代を担う子ども達を中心に教育普及活動(アースワークスクールなど)に努めたりといったソフト面での活動を先行させてきました。
そして、このような刻一刻と整備が進んでいくハード面と直ぐに効果が現われるわけではないが、時間をかけながらゆっくりと浸透しているソフト面での効果の中間的な要素を担う活動として「環境美術館設置」事業は想定されています。
環境美術館分布図
環境美術館分布図
  上記の分布図における横軸はハード・ソフトに係わるウエイトを表わし、縦軸はその公共性とプライベート性の度合を表わしています。
従って、当該エリアにおいて最もハード事業のウエイトが重く、公共性が強い事業としてダム建設が位置づけられ、逆に、ソフト的なウエイトが重く、極めてプライベートである活動として個人コレクションがあげられています。
また、ソフト事業として位置づけられながら、公共性が強いものとして、美術館やホールといった公共施設があげられ、その対極にスタジオ、アトリエ/企業/人家などが位置づけられます。
このモデルにおいて、環境美術館を分布すると、図のような配置が想定されます。つまり基本的には個人/プライベートをベースとし、管理や運営、資金面などにおいて、各自で責任を持つ美術館が中心となり、少数のハード要素を持った建造物、公共性を併せ持ったスペースといった分布が可能となります。
場合によっては、個人で使われている個人制作スペース、古い民家などを空間として開放してもらいそれを環境美術館として認定することや、基本的に少数の人が楽しむコレクションを、多くの人々が各々保持し、様々なかたちで公開していくことで環境美術館として位置づけられたりします。もちろん行政による公共美術館やギャラリーについては、既に展示空間として機能しています。
  このように、主体性の明確なプライベートな活動を「認定」あるいは「積極的な位置づけ」を行っていくことで、全体の活動を体系化し、その役割を分担していこうというのがこの「環境美術館設置」事業となります。
主体性の面では責任を担い得ないダム建設という巨大土木工事に対し、規模は小さいが各人の判断で展開も休止もできるというフレキシブルな装置(環境美術館の位置づけ)をつくりだすことで、大きな目標である「環境美術圏づくり」を推進していく原動力として活用していこうとしています。
  本事業では、これらの全体的な位置づけに従って、公共性の強い環境美術館設置について、責任主体を各町行政及び灰塚アースワークプロジェクト実行委員会で担っていくこととし、作家・建築家を中心とした専門グループによる業務実施をはかりました。
環境美術館分布図での点線丸部分にあたる領域で、その典型的な形態となるプロトタイプ6タイプの制作・設置を行っています。

環境美術館設置の目的
  豊かな自然環境や永い積み重ねで生まれている伝統文化・慣習を「環境美術館」という器に取り込むことで、地元地域全体に新たな見方や認識を発生させ、外部に対し「自信」と「誇り」をアピールする。
また、ダムという将来に渡って存続する巨大構造物に対し、人の営みや、歴史・文化から対抗できる最小限の人口構造物として、長期に渡って変化させていくことのできる場所(美術館)を設定していき、様々な変化に対応できる環境づくりとする。
そして、外部からの定住者や外部の関係者を増やすことで、新しい環境や文化を生み出し、開かれたかたちで、より多くの人がともに楽しむことができることができる環境づくりを行っていく。
これらの「収集」「柔軟な展開」「開かれた場所づくり」を主要目的とし、環境美術館設置を実施していくものとする。
 ◇ 収 集
  地元の関心を呼び起こす、ドキドキするような「発見」、そして発見されたものを判断する独特の「基準」、同時にそれらを保管したり展示できる「場所」を設けていくことで、「収集」活動を長期に渡って継続させ、内外に対するアピールをはかっていく。
 ◇ 柔軟な展開
  50年、100年後を想定しながら短時間で建設されるダムに対し、時間をかけながらその時代、社会性を反映できる場所を確保していく。
変化や改良を容易に可能とする、柔軟な場所として、地域内外の変化に対応できるものづくりを行っていく。
 ◇ 開かれた場所づくり
  観光名所・観光資源として、交流人口を増大させることで、過疎・高齢化という地域的な特性に対し、新しい解決方法を確立する。
同時に、過疎地域からの情報発信を行っていくことで、距離的な問題を超えた交流と活動をおこなっていく。

環境美術館設置の効果
  独特の一貫した判断基準により関連制作者や場所を選定することで、このエリアにしか存在しない「作品」を有する。
地元住民のみならず、若手の優秀な作家や建築家の参加は、専門分野での評価を受けやすくし、制作プロセスは地域全体に大小の影響を及ぼす。
また、緩やかな計画に基づき遂行していくことで、次代を担う子どもたちを中心に、芸術文化活動への積極的な係わりをもてるようになり、芸術文化という特色をもった町づくりが可能となる。
 1. 交流人口の増大
  当該エリアにしかない数々の「作品」設置により、観光名所、観光資源が生み出される。これらの観光資源をつくりだすことによって、交流人口の増大をはかることができる。
 2. 地元地域の再発見
  作品が設置されることにより、場所の認識が変化。地元の再評価により広域なエリアでの活性化をはかることが可能となる。
 3. 芸術文化をいかした町づくり
  良質の作品を展示することにより、作品を見たり、自ら作ったりといった芸術文化活動の裾野を拡大。各町内外の芸術文化施設や団体とのネットワーク化により、芸術文化の町としてアピールが可能となる。
 4. ダムエリア周辺での相乗効果
  これまでの環境や伝統・慣習に配慮した全く別の観点からの小さな人工物が配置されることにより、人工的な巨大構造物でもあるダムに対し、ダムエリア全体の印象をより複雑で多様にし、たえず少しづつ変わっていく柔軟性を持つことを可能とする。
 5. 時間をかけた波及効果
  今後予想される社会的・環境的な変化に対し、無理なく対応しながら、継続していくことで、様々な業種における産業・事業面での波及効果を期待できる。

テーマの分類
  今後、環境美術館設置を進めていくにあたり、想定される設置物のテーマを、大きく3つに分類する。最終的な目標個数88ヵ所に到達する際、これらのテーマとそこで想定される6つの表現形態に従って、設置が実施されていく。
 ◇ 景観形成
  巨大構造物であるダムに対し、より身近で親しみやすい施設・場所として美術館を設置していく。
 ◇ 地域振興
  産業振興、地元協力、住民参加といった、作家や建築家などが、より多くの人々とともに協力して作り上げ、設置していくもの。
変化や改良を容易に可能とする、柔軟な場所として、地域内外の変化に対応できるものづくりを行っていく。
 ◇ 芸術振興
  コレクションをもつ小さな美術館として、見ることの愉しみや集め、分類する意外性を広く普及していく。

景観形成
 1. 自然環境・借景型(平成11年度事業) Zoom!
  借景的な要素を取り入れ、自然環境や景観を活かした設置がなされているタイプ。
【勝利の山】(制作中)
 2. 自然現象応用型(平成10年度事業) Zoom!
  自然現象を意図的に意識させる、あるいは美術館が設置されていることで、自然現象そのものをより鮮明に意識できるようなタイプ。
【ぞうのみみ】
 3. 人工構造物調和型(平成10年度事業) Zoom!
  巨大構造物に対し、大きさや質感、野蛮さを逆手にとって、別の視覚的な要素を生み出すタイプ。
【回転窓】

地域振興
 1. ムーバブル型(平成11年度事業)
  Zoom! 移動可能であることを主要素とし、鑑賞する場所、利用する場所を変え、設置場所や鑑賞場所によってその意味を拡げることができるタイプ。
【Y型観測所】(制作中)
 2. 生活密接型(平成11年度事業)
  Zoom! 生活と密接な関係を持ちながら、形状的に展示に値するような様々な「もの」を、新たに作り出したり、これまでと全く違う見え方をするような展示をおこなうタイプ。
【Light Works】

芸術振興
 1. 作品展示型(平成10年度事業)
  Zoom! 小さくはあるが、一貫したコレクションを有する美術館とし、常時展示作品の入れ替えや、企画展が開催されるような、もっとも汎用的なタイプ。
【MOMA-KUN】


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