堀 正人 (建築家) |
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■ | 木屋地区周辺整備 アースワークデザイン(1997年12月) | ||||||
◇ 計画の構成 | |||||||
この計画は、以下の2つのものにより構成されている。
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前者の“全体計画”は、地元住民の方々との話し合いをもとに、建設省のダムエリアの工事計画と合わせて、木屋地区の具体的なかたちを探ったものである。基本的な考え方は、先にアースワークで行なった木屋地区の「ハーブ園」構想がベースになっており、それを具体化に向けて発展させたものである。 | |||||||
後者の“実験農園”では、木屋地区ダムエリアの一部がその敷地に充てられるわけだが、その敷地範囲内で、前者の“全体計画”に描かれた園内管理道を実際につくり、木屋地区ダムエリア全体で計画されている植栽全般にわたる生育実験が行われる。 | |||||||
したがって、“実験農園”は“全体計画”を前提としたものであり、今後“実験農園”の成果を踏まえて“全体計画”をより詳細に具体化していくことになる。 |
■ | 計画の基本的な考え方 | |||
◇ 木屋の「自然のかたち」を残す方向で | ||||
本計画で対象となる範囲は、洪水時に水没する可能性はあるが、通常は水の上がらない土地が大半を占める。つまり、標高231m(常時満水位)から標高247.3m(サーチャージ水位)の間の土地だ。この土地は、ダムをつくる側からすれば、人と水の間に引かれた国境の立入禁止地帯のようなものだ。しかし、こうした考え方をそのまま受け入れると、木屋の「自然のかたち」は失われてしまう。そこで、本計画では、この土地が、人と水の間に横たわる空白の立入禁止地帯ではなく、昔ながらの木屋谷の風景がそうであったように、人と水がせめぎあい共存する場をつくることをめざしている。そして、木屋谷の持つ「自然のかたち」をなるべく損なわないような計画とした。 | ||||
こうした考え方は、ダム建設側の論理と地元の新しい生活の論理を、どのように重ね合せてかみ合うようにしていくか、というプロセスそのものでもある。 | ||||
◇ まず「自然のかたち」を知ること | ||||
いわゆる木屋谷の「自然のかたち」とは、自然の谷の地形だけではなく、それに長年の人の営みが加わってできたものだ。 したがって、「自然のかたち」を残そうとするためには、まず、谷の地形的スケールや特性を細かく読み取ることから始めなければならない。長い年月をかけて人間がどのようにこの谷の地形に手を加えてきたかをよりどころに、谷の景観を知ることが計画の第一歩だ。 |
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◇ 「自然のかたち」を残すためには | ||||
「自然のかたち」になじむようにするためには、できる限り現状の地形に対して切り土や盛り土は避けたほうがいい。そのことを第一に考えて、道路(林道)計画の見直しを提案した。また、以前の地割や田んぼの形状は、自然の地形と一体化して木屋の「自然のかたち」を形成してきたわけだから、それらをなるべくこれからの計画に生かす方向で考えることにした。人間のつくりだした田んぼのかたちをそのまま使って、これから計画する農園内の道や諸施設を配置していくことにした。 | ||||
◇ さらに「自然のかたち」を磨いていく | ||||
これまでも、木屋の「自然のかたち」は、そこに住む人たちの手が継続的に加わってきたことによって、守られ磨かれてきた。これからも、そこに住み続ける人たちの手によって、「自然のかたち」に潜むさ魅力を引き出していこうとして、初めて「自然のかたち」を守ることがかなう。 | ||||
本計画はそのベースとして位置づけられ、さらに長期的にかつ継続的に発展性のある計画を重ねていくことが今後求められるだろう。 | ||||
◇ 4つのゾーン | ||||
木屋地区のダムエリア内は土地の高さと特性にしたがって、大きく以下の4つのゾーンに分けられる。 1. レベル238.5mまでの田んぼ跡地 2. レベル251.5mまでの田んぼ跡地 3. 河岸段丘の上部(以前家屋があった場所を含む) 4. レベル251.5m以上の土地 |
■ | 全体配置計画 | ||||||
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上に示された4つのゾーン別に、次のような用途で計画する。
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◇ 各プランの詳細 | |||||||
○ 淀みの広場 | |||||||
木屋川の屈曲を利用して、比較的大きな淀みをつくりだし、それを取り囲むように舗装された空地(広場)をつくる。淀みには、川の流速を弱め、山すそや橋脚まわりの侵食を軽減する働きもある。 この広場は、駐車場や橋の上からは、木屋地区への‘入口’となり、逆に、木屋地区を通過して橋の下からは、副ダムへの‘入口’となる。冠水すると自動的に配置の変わる丸太のベンチを置く。仕上はレンガ舗装、小舗石舗装。 |
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○ 農園(野草、ハーブ園) | |||||||
ハーブや自生植物の農園を、かつての地割をよりどころに割り付けていく。水に近い谷間に適応可能な西洋ハーブを新たに導入し、自生植物と調和させ、木屋谷らしい農園に育てていく。品種やレイアウトについては、“実験農園”の結果を反映させて今後具体的に決定していく。また、将来的には、市民農園として活用する可能性も検討していく。 田んぼの畦道があったところをガイドに曲線と組み合わせて、木陰で一休みできるような空地を取る。この憩いの場となる空地は、道と段差がなく、ふくらみのある形状となっている。 |
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○ ゲートボール場・駐車場 | |||||||
ゲートボール場は、あけび棚に囲まれ、数段の観客席を備える。駐車場(92台)は、果樹園と敷地の高低差で、農園からは車がみえないように配慮されている。 | |||||||
○ 諸施設 | |||||||
敷地の特性を十分考慮して、内容、規模を事業計画にあわせて、今後計画していく。 新設の建物だけでなく、廃屋を買収あるいは借り受けて、農園利用者の宿泊施設とするなどの可能性も、今後検討していく。 炭焼きの伝統を継承するため、炭焼き小屋の建設も予定されている。 |
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○ 道路計画:林道の見直し、路面の仕上など | |||||||
先の「基本的な考え方」に示したように、なるべく切り土盛り土を少なくし自然になじませることを第一に考えて、林道の一部見直しを提案する。万が一の時にも冠水しないように、道路は標高247.3m以上に通すのが原則になっている。しかしここでは、林道の使用目的や頻度も考慮してこの原則をもう少しフレキシブルに適用し、一部、木屋川橋下の既存の道路とつなぐ部分で、例外的に標高247.3m以下の山際にそって巡らすように見直すことを提案する。 | |||||||
路面の仕上や道幅については、以下のようにそれぞれの道の性格を考慮して定め、並木や植栽等を考える。 町道(5m+1.5m)− 車道:アスファルト 歩道:カラーコンクリート平板塗装 林道(4.5m)− 車道:有孔アスファルト 仮設道(5m)− 幅員を3mに狭め、並木、植栽をほどこす 遊歩道(2m)− 洗い出し平板塗装 園内管理道(1m〜8m)− 安山岩砕石、野芝 木屋川に架かる七つの橋の規模に応じて、デザインに特色を持たす。 |
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○ 木屋川に架かる七つの橋 | |||||||
木屋川の両岸を繋ぎ、農園のアクティビティーを高めるために、7つの橋が計画されているが、2つのタイプに大別できる。ひとつめが歩車両用で、木屋川橋と2つの林道の橋。もうひとつが歩行者専用で、2つの歩道橋と2つの飛び石の橋がこれに相当する。 橋の規模の違いが自動的にデザインに特色を生み出し、簡素だが木屋谷の風景を彩る橋が求められる。 |
■ | 実験農園について | |||
◇ 実験農園の場所と規模 | ||||
花壇:木屋谷の入口(約100平方メートル) セツブン草:林道上の山の斜面(約4000平方メートル) ワイルドフラワー:河川護岸面(約500平方メートル) ハーブ:須賀神社前の田んぼ跡地(約500平方メートル) 自生植物:須賀神社前の田んぼ跡地(約500平方メートル) |
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自生植物については、住民の方々に協力してもらい収集し、品種を整理して、レイアウトを検討しながら植えていく。 ハーブについては、70種程度とし、実験的になるべく多品種を試み、その中から実際に使用する品種を選べるようにする。 ワイルドフラワーについては、選定した品種について実験する。 |
■ | 木屋川橋周辺全体計画(2000年2月) |
この計画は、アースワークプロジェクトの全体計画(木屋地区周辺整備計画)を見直しながら、地元の方々の意見、アイデアをもとに作成された。 木屋川橋の架かる位置は、木屋地区の入口で、ダム完成後には、木屋谷からのダム湖、副ダムへ続く入口になる。 そして、この入口のゲートとなる橋の高さは約20mあり、この高さの差を利用することで、橋を中心に谷全体を、立体的にデザインすることが可能となる。 ダム建設に伴う計画道路や橋に、既存の道路、工事用道路を整備して、橋と谷をぐるりと一回りできるような遊歩道を計画している。駐車場のある橋の袂を起点に橋を渡り、遊歩道を通って、ダム湖と副ダムを見渡せる展望台に昇り、よどみの広場に至る。 遊歩道のルートが、数珠の糸となって新しく整備された場を繋ぎ合わせていく。 ダム関連の土木工事により大きく改変された地形に、最小限手を加えることによって、谷全体が新しく調和のとれた場になるような計画をめざしている。 |