経緯
  倉谷トンネルは、総領町稲草地区アースワーク公園と吉舎町知和地区高水敷ビオトープ公園という2つの自然公園を結ぶ、景観上も重要な役割をもったトンネルである。国土交通省(当時の建設省)の計画では、トンネルの坑口(出入り口)をコンクリート壁面で固める予定だったが、それに対して2000年アースワークプロジェクトでは、自然公園の中心に位置するこのトンネルの「緑化」を提案した。
吉舎町側 総領町側
  アースワーク宣言で提示された基本理念−自然の魅力を最大限生かした美しい環境づくり−をふまえ、周囲の自然に融合したデザインとするのみならず、トンネルを通過する人々、ここを訪れる人々にこれから開かれるだろう新しい世界への希望と期待を抱かせるような新鮮なデザインを心がけた。未来への期待を感じさせるようなアクティビティをデザインに加味させること、すなわちデザインをする上での基本的な条件となった。

デザインの方針
  移動する視点に合わせ、軽快さ、明るさが感じられる水平線を基調にしている。水平線は五線譜にもなぞらえ、歳月の推移、季節の変化による景観の変化やうつろいが法面の五線譜の上に音符のようにうつしだされていく。自然の生命緑がそのまま音楽をあらわす。苔は古代より永遠性を象徴するものであった。巌となりて苔がむすまで――自然とその中で暮らす人々の生活とが結びつけられ美しい環境が受け継がれていく、そうした祈念が込められている。

コケマットを使用したデザイン
  従来工法では緑化が困難なコンクリート垂直面を苔(スナゴケ)を用いた新しい工法を用いて緑化する。
2001年10月現在
  • 苔を使用した工法は日本でもはじめてであり、各方面から大いに期待され注目されている。
  • スナゴケの生育は仮根の上に積み重なるように行われ、相互の結束は横方向に伸びたネットワークによって表される。
  • スナゴケは高い保水機能を有する。
  • スナゴケは胞子を雨の日に飛ばすため、花粉症を引き起こさない。
  • CO2固定力がかなりある。
  • コケは必要に応じて水分を吐き出す機能を有するため、砂漠や南極でも生き続けることができる。
  • スナゴケにとってコンクリート壁面は最適の生育環境になりえる。周囲が砂漠化(無人化)した後でもコケの時代は1000年は続くだろうとされている。
  • スナゴケはフライパンで煎っても発芽能力が消えない。
  • メッシュ筋付コケマットPP製三次元織物内にタネゴケを直播きして、1年間程度育成養生すると、コケで全面覆われた状況になる。
  • 鉛直壁面でも生育可能である。


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