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アースワーク公園 岡崎 乾二郎 
(造形作家)
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はじめに
  1994年、ダム建設によって出現する広大な高水敷の利用方法として提案された「アースワーク」作品の導入は、その後語意としても変化するにとどまらず、「アースワーク」作品そのものの範囲を拡大していくこととなった。
アースワークという言葉そのものに含まれる、土木工事、スケールの大きな造成といった事柄は、現在進められているダム建設にともなう道路工事、あるいは橋梁やダム堤体といった構築物に象徴され、当初考えられていた「作品」としての導入ではなく、全体景観を検討していくという方向性をとるに至った。5年に渡る活動のなかで、その方向性を「アースワーク宣言」としてまとめる段階までになっている。
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一方、当初提案していた、作品としての「アースワーク」の導入については、形状が面白い、作家の考え方を直接的に反映しているという「作品」としての在り方と、将来に渡ってともに生活をしていく地元住民の意向や管理・メンテナンスへの配慮など、スパンの長い整備と長い年月による変化に耐えられる柔軟性が求められることとなった。
1997年度、地元協議を進めていく母体として、「総領町づくり推進委員会ダム部会」あるいは「田総の里自治会」などで協議していくことを計画し、本年度は両会議において地元・行政・作家の対話を続けてきた。
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この過程において、機能性・利用法・管理など多くの事柄を協議しつつ、建設省あるいは総領町といった行政で対応できる部分と、地元あるいは作家共同のもとで行っていくことなどを整理しようとしている。
本基本設計事業では、将来に渡っての綿密な計画を策定するというよりも、基本的な方向性を確認しながら、時代の変化に対応できるアバウトさを残すように配慮されている。順次進めていく整備内容と、その全体での位置づけなど、想定される事柄を網羅し、緩やかに整理してある。
今後、ダム建設の進捗状況をみながら、この基本方向を確認しつつ、整備が進められることとなる。

1. 概要
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副ダムよりも上流の田総川沿いのダムエリアを総称して、アースワーク公園(仮称)と呼ぶ。このエリアは総領町の修景の重点箇所であり、強いては灰塚ダム全体の個性を代表する最も重要なエリアの一つである。このアースワーク公園は大きく4つのエリアによって構成される。
  1. 稲草地域
  2. 羽地橋および、その周辺
  3. 稲草地域から羽地橋までのエリア
  4. 副ダムおよびその湖畔周辺

2. 計画にあたっての基本的な考えかた
  このエリアの計画を巡る総領町でここ数年積み重ねられてきた、地元の人々とのワークショップで、全体のコンセプトはおおよそ以下のような要点にまとめられてきた。
  1. 自然を楽しむ環境づくり
  2. 自然をいじらず、自然を生かし活用する環境づくり
  3. 地域の人々の生活と共にあり、地域外のひとびとにも愛され親しまれる文化的普遍性をもった環境づくり
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以上の I. 〜 III. はこの地域に定着してきてアースワーク活動の定義づけでもある。
以下 3. で、この基本ラインにのっとって、より具体的にアースワーク公園計画に対する地元ワークショップによって確認されてきた基本方針をのべる。

3. アースワーク公園計画の基本方針
 (1)配慮されるべき事柄
現在の稲草エリアは明治時代に行われた用地測量に準拠して、人口的な護岸で固められた田総川で景観が切断されており、さらに道路が新設道路が付加されると、田総川に沿ったラインが一方的に強調され、景観の閉塞感が強まるおそれがあることよって、それに対して、
  1. 田総川を横切り、舟迫から御調谷へ向かい、さらに生活再建地へ連なるライン へ景観を拡げること。
  2. 川平山からの眺めを考慮すること。
  3. 大昔の田総川の流れを見直し、自然本来の理にしたがった景観形成を行うこと。
  4. 谷間を囲む法面は、圧迫感を与えず景観をみださぬよう自然緑化を基本にすること。
堪水試験時などの水位上昇時にも対応した美しい景観形成。
荒れ地の印象をなくし雑草が気にならない景観形成。
以上の点を考慮して得られたのが次項の基本コンセプトである。
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 (2)基本コンセプト
  1. 旧護岸は自然護岸になおす(旧堰も取り除く)。
  2. 法面は緑化。
  3. ----1 対象となる河川敷エリア内に高低差をつけ、水没せず、堪水試験時などの満水時には島として残る灌木エリアとワンドや湿地をもうける。
    ----2 大昔の田総川の流れ、景観を再現するような景観形成。
  4. 島(灌木エリア)ごとに特徴をもたせた植生を行う。
  5. 既存の用水路を生かし、蛍の育成などを行なう。
  6. 蛍の用水と連携し、とんぼ、蛍その他の小動物が集まる池を作る(お米池)。
  7. 遊歩道は旧畦道から選びだしたラインによってデザインし、ウッドチッブなどの舗装を行なう。
  8. 要所、要所に休憩所、自然観察所などの機能を備えた芸術ポイントを設け、公園全体に変化を与えるとともに、公園全体の個性あるキャラクターを演出する。
  9. 灌木地域(島)、池、湿地、ワンドなどの景観形成の重点ポイントと、多目的広場をバランスよく配置し、景観に変化をもたせ、雑草の管理を容易にする。(雑草が刈られなければならないのは主に多目的スペースだけで、他は雑草が気にならないような自然の景観の変化が作りだされる。
  10. 川の流れの圧力が大きく影響しそうの箇所は自然らしさを配慮した乱石積み、練石積みなどで補強する。
  11. 島と島を結ぶ経路は、簡易木橋(木道)、飛び石などを使う。
 (3)利用方法などについて
  1. 稲草地域と羽地橋を結ぶ渓谷はオートキャンプ場としての利用できる整備を行う。
  2. 稲草地域の多目的スペースの活用方法、育成する植物の種類などについては地元住民のワークショップ(委員会)を継続することで詳細を決定していく。さらに蛍の育成などのノウハウを必要なものについては、試験運用を実施する。
  3. 自然観測、調査研究、体験/実験学習などの環境教育の場として、エコミュージアム的な利用。
  4. オリエンテーリングに利用。
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 (4)デザイン的な特色
  1. 羽地橋周辺の県道のRと、稲草地区を取り巻く県道のRはほぼ同じ260メートルであり、こ の道路の形状特性を生かし、この二つの円弧によって暗示される260メートル円状のエリアの景観の双方が鏡像のように対応するようににデザインすることで線状にひきのばされ離れてしまっている二つのエリアの連関性を強める。
  2. 舟迫地区にある山の頂上はちょうど米粒の形態(直径30メートルほど)をしており蛍やトンポなどの育成を行う池は、この形態を写した形にする。川平山の頂上など高い場所から眺めると、お米が散らされたような姿に見え、稲草の名前を文字通り、象徴するサインの働きをもっている。


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